数年前、ある方から古いビデオテープをDVDに起こしてもらえないか?と渡されたのが「さよなら竜馬」でした。私も持っていたのですが段ボールに入ったままになっていて。ダビングしながら久々に深夜に全編見入ってしまいました。それからこの作品をもう一度復活できないものかと思うようになりました。
ちょうどその頃、学生演劇祭を主催して10年。悩んでいました。今の学生は頭がいい。ちゃんとリスク計算して身の丈に合った空間で芝居をする。だから学内から出ない。わざわざ芝居も観に行かない。演劇祭は思い出作りの場だけになってしまっていることに行き詰まりを感じていました。
きっかけは突如として訪れました。
学生演劇祭発祥の地、一心寺シアター倶楽さんとお話するうちに「ここで若い子たちを集めてプロデュース公演をやろう!」そんな話が持ち上がったのです。
「さよなら竜馬」をやるのは今しかない。そう思いました。
それからは一つ一つ手探りでした。
まずは誰に演出を任せるのか?今回はM.O.P.を知らない人がいいと思っていました。同世代だとどうしても当時の作品がちらつきます。やるなら徹底的に変えたい。そこでお願いしたのが劇団壱劇屋の大熊くん。彼のパフォーマンス構築力はこの作品にも活きると思いました。それに壱劇屋は劇団員も多くスタッフも自分たちで兼任していて、学生劇団がそのまま成長したような劇団でした。この劇団と協同プロデュースできれば骨格はできる。
ただ問題がありました。
今年10周年を迎える壱劇屋はかなり忙しくてスケジュールをはめ込むのは難しいと一度は断られたのです。それでも「さよなら竜馬」を新しく産み出すには彼らの力が必要でした。何度もお話していくうちに最終的には「劇団の若手も育てたいし、僕たちももっと若い子たちと芝居を作りたい」と快諾。
次に考えたのが主役の竜馬です。
この作品はつかこうへいさんの影響を多分に受けているので主役に対する比重が高い。絶対に折れない芯の強さと存在感。セリフの正確さ。そして何より学生演劇祭が主催するのだから演劇祭OBで主役は務めたい。
そう思ったらもう東京に足を運んでいました。田中穂先くんは慶大出身。2015年の学生演劇祭で優秀主演男優賞を獲得。卒業してすぐ柿喰う客に入団し、今や劇団の中核を担う存在です。
ここまで決まればあとは、上演許可とイラスト使用の許可。オフィスマキノさんと石渡治さんに連絡。今回のフライヤーは28年前のイラストをそのまま使用させて頂きました。
学生はもちろん、往年のM.O.P.ファンの方々、そして1990年代お芝居に足を運んでいた全世代のお客様の目に留まるフライヤーにしたかったからです。
そして最後はキャストです。オーディションの応募は60名を超えました。その全員と面談して総勢23名がここにいます。見たこともない、脚本も知らない作品に多くの方々が興味を示して頂いて本当にうれしい限りです。
そして、こんなにも個性的なキャストに集まってもらって感謝しています。
6月から殺陣の指導、着付け講習、所作講習、土佐弁・薩摩弁の方言指導、相撲レクチャーなどなど、本稽古までに本当にいろいろやりました。すべてはいい芝居を作るため。そして参加してくれた彼らに何か一つでも次に繋がるスキルを身に着けてもらうために。
稽古場確保、衣裳・小道具の手配、スケジュール管理、DM発送、スタッフとの調整、少人数の事務局だけでは事足りず、ボランティアスタッフにも大変助けられました。
そして宣伝は壱劇屋を中心に全員でやりました。本当にこれまでにないくらい。写真や動画の撮影編集。Twitterへの定期アップ。相関図作成などなど。また上の世代向けにチラシを大劇場で折込してもらったり、企業さんに挨拶回りしたり、M.O.P.メンバーにも会いに行っって写真を撮らせてもらったりコメントを頂いたり、とにかくやれることは全部やりました。
その間、大熊くんの結婚式があったりして・・・、
今、バラバラに集まった若者たちが一つになろうとしています。
再演不可能とまで言われたこの作品が一人一人の力で蘇ります。
所詮学生上がりがやってるプロデュース公演だろと言わせない作品になりました。
あとは皆さまに見ていただくだけです。ご来場お待ちしております。
プロデューサー 藤原治基